“サトゥーン”“サトラッシュ”“サトリーヌ”“かずこ”…
私にはいろんな呼び名がある。
勿論私にはれっきとした名前があるわけで以上のいずれも私の本名
ではない。
しかしそのいずれもが私を差し示すものとして通有力を有しているのである。
このように一つのものに対して複数の呼び方がある傍ら、その明確な呼称をただのひとつも与えられていないモノがあり、そのモノにたいして、深い悲哀と同情の念を感じることを私は敢えて隠さない。
そのモノのひとつがこの町工場に転がっていそうな鉄片である。
ギルド本科生にはお馴染みの固定台の頭に装填されるパーツなのだが本科生はこいつを“固定台のアレ”などと呼んでいたりする。
…これは大変ゆゆしき事態であると断ぜざるを得ない。これがなければ固定台を使用できず、ひいては作業の進行に重大な支障をきたすというべき重要なパーツであることを認識しながらその呼称についてなおざりにするが所為は正気の沙汰とはあまりにもかけ離れた愚行とするを相当と解される。
そこで深い反省と未来に先送りすべきではないとの強い使命感のもと、僭越ながらこの鉄片の命名をいたしたいと思う。
この鉄片が固定台にもラストにもズッコンとはまることから
紳士用を“ズッコン君”
婦人用を“ズッコンちゃん”
とさせていただきました。かかる呼称がギルドないし靴業界において広く普及することを願うものであります。